「QCサークル活動が形骸化しており、成果を実感できない」
「メンバーは皆、やらされ感を持ったまま仕方なしに取り組んでいる」
「発表会が目的になっており、発表のための活動になっている」
私は過去に、とある企業でQCサークル活動を自社内に普及させるための推進事務局を務めた経験があり、上記の悩みは、まさに自社の活動メンバーから挙げられた生の意見です。
この記事では、「その1 なぜ活動に消極的になるのか」の続編として、どうすれば消極的になることを回避できるのか、私が重要と考える要点を紹介したいと思います。
どうすれば消極的にならないのか
その1の記事でも紹介したように、「QCサークル活動は時代遅れ」「活動時間を確保できない」「成果を実感できない」といったように、活動に対する消極的な意見はいくらでも実例として出てきます。
それでは、どうすれば消極的になることを防げるのか、その裏返しを考えてみましょう。
QCサークル活動の本質は「人財」を育成することに尽きます。
言うは易しなのですが、この目的にどこまで徹底してフォーカスするか、これが意外と難しいのです。
以降では、4つのステップに分けて、あらためて「人財」の育成のために正面から向き合うべき行動・姿勢について整理してみたいと思います。
STEP1 そもそも何のための活動なのか共有する
繰り返しになりますが、QCサークル活動はそもそも誰の何のための活動なのか、定義をきちんと明確にしましょう。
4つの要素(人、グループ力、改善力、管理者の支援)は、いずれも大切なものですし、アウトプットとして企業の経営改善や品質改善に結び付けることももちろん重要です。
しかし、こういった色んな観点での重要な要素が頭を駆け巡るだけに、何を根幹に据えるべきか、ふと分からなくなる時があります。
私の個人的な意見ですが、企業の経営改善は突如として成し遂げられるわけではなく、その前段階として組織横断的な改善活動や、さらに改善を推進する組織力が備わっていることが求められます。
つまり、従業員の成長が組織力の強化になり、さらには企業の経営改善と繋がるわけで、何より「人財」が育たないと、その集合体である組織も育たず、さらにその集合体である企業も育たないのです。
あくまでも企業の経営改善は、地道で長期的な「人財」を育成したアウトプットにすぎず、根幹となるのは、やはり従業員一人ひとりの成長なのです。
逆に言うと、一人ひとりが高い意識を持ち、地道な改善活動を継続すれば、当たり前に日常的な改善の意識が芽生え、それが良い風土の醸成になり、さらにその風土が組織の横通しの連携や次の世代へのバトンパスに広がっていきます。
このように、いきなりアウトプットにフォーカスする活動ではなく、そのプロセスを遡って、源流である「人財」をいかに成長させられる活動とできるか、ここにQCサークル活動の将来、つまりは企業の将来の運命がかかっていると言っても過言ではないと思います。
STEP2 「成長」とは何なのか、あらためて考える
それでは、一人ひとりの「成長」とは何を意味するのか、次に考えるべきポイントとなります。
皆さん、仕事を通じた「成長」というと、どのようなスキルを思い浮かべますか?
エンジニアであれば、プログラミングスキルや設計のスキルなどでしょうか。
あるいは、事務系ですと、事務処理能力やPCのスキルなどでしょうか。
それとも、業種や職種を超えた共通的なものとして、コミュニケーション能力や提案力などでしょうか。
一言でスキルといっても色んなものがあります、上で挙げたものも全てスキルの一つであることには間違いありません。
ただ、ここで一度整理しておきたいのが、スキルの種類についてです。
次の図は、ハーバード大学のロバート・L・カッツ教授が提唱した有名なカッツモデルと呼ばれるものです。
大きく分けて、テクニカルスキル(業務遂行能力)、ヒューマンスキル(対人関係能力)、コンセプチュアルスキル(概念化能力)の3つに分けられます。
これらの能力はマネジメントのレイヤーによって、必要とされる割合が異なると言われ、チップマネジメントになるほどコンセプチュアルスキルが高くなると言われています。
一般従業員であるスタッフ層は比較的、テクニカルスキルの比率が高く、多くの方のイメージする「スキル」や「成長」は、この部分を表しているのではないかと思います。
確かに、テクニカルスキルも重要であり、QCサークル活動を通して、専門知識を深めたり、専用ソフトを使えるようになったり、技術・技能面で成長できる点も多いです。
しかし、必ずしもそういったスキルアップに結び付くテーマばかりではなく、元々の保有スキルで対処できる課題も多くあります。
このような場合に、活動メンバーから「成長の実感がない」「やってもムダ」といったネガティブな意見が出てしまい、広く連鎖して改善風土が失われた職場になってしまうのです。
しかし、カッツモデルには、まだ続きがあります。
その後、オーストリアの経営学者ピーター・ドラッカー氏が、カッツモデルを改良したドラッカーモデルを提唱しました。
このモデルによると、ロワーマネジメント層にもコンセプチュアルスキルが必要であると説いたのです。
単に与えられた仕事をこなすだけではなく、「状況に応じた最適解を考える」「問題・課題を自分で見つけ出して解決策を考える」ことが必要になることから、マネジメントレイヤーだけに限らず、全ての従業員にとってコンセプチュアルスキルが必要と提唱されています。
このように、仕事を通した「スキル」の獲得を単なるテクニカルスキルに留まらず、ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルに視点を広げて解釈してみたらどうでしょう。
例えば、QCサークル活動を通じて、論理的に統計的に物事を捉えてストーリーを構築する力、周りの関係部門を巻き込んで解決策を推進する力など、「成長」のチャンスは色んなところに散らばっているのです。
QCサークル活動が、「従業員一人ひとりの成長」を根底に置いた活動であるならば、こういった総合的なスキルの獲得に繋がることを、事務局だけでなく、管理職や活動メンバー一人ひとりが意識して目指すべき姿のベクトルを合わせることが必要なのです。
STEP3 QCサークル活動で獲得できることを伝える
では、ここであらためてQCサークル活動を通じて得られることを、QCストーリーに沿って整理してみましょう。
先ほど例を挙げたのは、ほんの一部であり、問題提起から解決に導くまでのプロセスの中には、たくさんの成長機会の要素が転がっています。
テーマ選定
QCサークル活動で経営数値や他社情報などというと、少々大げさに捉えられるかもしれませんが、活動テーマを何に設定するかを判断するうえでは必要な背景知識になります。
これは、一般従業員の一人ひとりが経営情報を知っておく必要があると言っているわけではなく、経営層から必要な情報がきちんとブレークダウンされていれば、自組織で持ち合わせている情報の中で判断すれば十分なのです。
そして、組織目標が部長から課長、さらには係長へときちんと落とし込まれていれば、自組織の目標が明確になっているはずで、それを達成するために自分たちが最優先でやるべきことをロジカルに考えることが、QCサークル活動でのテーマ選定のゴールと言えます。
実はこのステップが最も難しいと言っても過言ではありません。
というのも、サークルの活動メンバーが自分たちでしっかりと考えられるための材料として、経営数値や組織目標がきちんとブレークダウンできていない組織が非常にたくさんあるからです。
後ほど詳しく述べますが、管理者層は単に上から下へと情報を流すだけでは意味がありません。
きちんと自組織に合った具体的な目標にブレークダウンする役割が必要で、これこそ総合的品質管理(TQM:Total Quality Management)の提唱する方針展開のことなのです。
もし、自分たちのQCサークルの活動を進めるにあたって、すでに必要な情報や目標が明確に落とされている場合は、ある意味で非常に恵まれた環境とも言えます。
そうであれば、あとは自分たちの組織が目指す姿に近づくために必要なことを、重点指向の考え方に則って、きちんと優先順位をつけて考えられれば、おのずと今やるべきテーマが明確になると思います。
現状把握
テーマが決まったら、まずは現状を把握して、問題・課題を明確にします。
ここでも情報収集能力が養われ、具体的には三現主義の考え方に基づいて現場を洞察する力や、他部門から必要な情報を引き出すためのコミュニケーション能力などが身に付きます。
また、得られた情報を事実に基づいてデータ解析することで、生のデータでは見えてこなかった問題点を浮き彫りにし、次のステップに進む糸口を見つける力も養うことができます。
目標設定
現状を把握して、あるべき姿に対してのギャップが明確になったら、次はそれを埋めるための目標を設定します。
このステップでも経営数値などの情報収集や、組織目標に対する理解が備わったうえで、適切な目標が設定できるので、同じく必要な資質となります。
また、後ほどの対策立案でもスケジューリング能力は必要になりますが、目標を設定するうえでも、現実的な目標を立てることが求められ、そのために必要な投資や所要期間など、周辺知識を兼ね備えることが望ましいです。
要因解析
解決したい問題点の要因を調査して、原因を特定するステップです。
やはり、データの解析能力は必須と言えますし、それをきちんと因果関係に落とし込んで、論理的にストーリーを組み立てる能力も必要とされます。
さらには、この辺りのステップから、なぜそのように考えたのか、結論付けたのか、思考のステップを活動メンバーや上司、関係部門と共有することも必要で、十分に理解してもらえるだけのプレゼン能力や資料作成能力なども求められます。
また、活動テーマの内容によっては、専門的な分析やツールの活用も必要とされ、いわゆるテクニカルスキルが身に付くことも言うまでもありません。
対策立案
原因が絞り込めたら、解決のための対策案を立てます。
周りを巻き込んで計画を立てるスケジューリング能力の他、対策の適用に必要なお金と時間に対する感性も問われます。
そして、対策案に関しても、関係者に十分に説明できるだけのロジックやプレゼン能力も必要とされ、これらがすべて備わることではじめて円滑に対策の検証に着手できるわけなのです。
対策実施、効果確認
もちろん、これまでに挙げたさまざまな能力も身に付くことは言うまでもないですが、対策の実施にあたっては試行錯誤が避けられません。
計画の立案だけはたくさんの意見が出てくるけれども、いざ実行となると尻込みしてしまう、いわゆる評論家になってしまってはいけません。
すぐに実行に移す行動力、PDCAサイクルをとにかく早いスパンで回して高速にフィードバックする実践力、失敗しても諦めずに継続する力など、これぞ無形効果の賜物といっても過言ではありません。
標準化
最後に標準化まで到達できたら、これは他部門や将来の後輩たちへの伝承とも言えるステップです。
ここでは、自分たちが活動で得たことを後世に残すための作文能力、それを分かりやすく第三者に伝えて育てる育成能力が獲得できます。
さらには、自分たちの事例を水平展開するために、事象を抽象化したり一般化したり、モノの見かた自体を変えて視座を高めることも必要となります。
もはや、この領域まで到達できていれば、QCサークル活動に留まらず、どんな経験のない分野でも適応できるはずで、コンセプチュアルスキルの代表例とも言える能力となります。
ここまで挙げた以外にも、まだまだ「成長」の要素はありますが、総じて、問題解決能力、コミュニケーション能力、マネジメント能力、プレゼン能力など、間違いなく業種や職種を超えて通用するスキル(ポータブルスキル)になることでしょう。
STEP4 一人ひとりの価値観とお互いに向き合う
最後のステップとして忘れてはいけないのが、一人ひとりの価値観と真摯に向き合うことです。
ここまで、QCサークル活動を通して成長できることについて述べてきました。
しかし、人それぞれ価値観は違うものです。
「成長」の定義は、必ずしも皆が同じとも限りませんし、どんなスキルに重きを置くのかという考え方も人それぞれです。
とにかく、上からの決めつけや押し付けが活動メンバーにとっての最大の反発要因になり得るので、きちんとそれぞれの価値観を理解したうえでベクトルを合わせるようにしましょう。
メンバー一人ひとりのインセンティブ(行動を促す「刺激・動機・励み」になること)と合致して初めて活動が加速するので、1 on 1や定期面談などの機会を通じて、日ごろから何をモチベーションに感じているのか、管理者やリーダーはメンバーの個性を知ることも軽視してはいけません。
その2編は以上です、最後までご覧いただきまして、ありがとうございました。
次回「その3 会社の総合力で活動を加速・持続させる」では、活動をさらに活性化するために、会社として総力を挙げてやるべきことについて紹介したいと思います。
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