「QCサークル活動が形骸化しており、成果を実感できない」
「メンバーは皆、やらされ感を持ったまま仕方なしに取り組んでいる」
「発表会が目的になっており、発表のための活動になっている」
私は過去に、とある企業でQCサークル活動を自社内に普及させるための推進事務局を務めた経験があり、上記の悩みは、まさに自社の活動メンバーから挙げられた生の意見です。
この記事では、「その1 なぜ活動に消極的になるのか」、「その2 どうすれば消極的にならないのか」の続編として、活動をさらに活性化するために、会社として総力を挙げてやるべきことについて、私が重要と考える要点を紹介したいと思います。
マインドセットの他に必要な要素
その1、その2の記事では、QCサークル活動で大切にしている考え方や活動を通して身に付くスキルについて紹介してきました。
これで目的がはっきりして、自分自身のマインドセット(考え方や心構え、判断基準など)が明確に定まったとして、それで十分という訳ではありません。
やる気はあっても空回りしたり、会社として周りがきちんとサポートしないといずれやる気もなくなってしまったり、活動を衰退させるリスクは数多く潜んでいるので、「QCサークル活動に専念できる環境づくり」をサボってはいけません。
以降では、周りを取り巻く環境から見て、会社として総力を挙げてやるべきことについて、紹介したいと思います。
トップの意思表示
最も重要と言える要素の一つに挙げられるのは、会社のトップがQCサークル活動に向けての明確な意思表示をすることです。
QCサークル活動のメンバーも当然ながら企業人の一人であり、あくまでも仕事の一環で職場の改善を進めているのであって、ただの仲良しサークルとは全く性質の違うものです。
そのため、自職場において問題や課題を解決することは、すなわち会社にとってより良い状態を目指すことと同義となります。
トップはその意義をきちんと理解し、ボトムアップで組織力を向上させ、さらには会社の未来を創る重要な「人財」を育成する機会であることを肝に銘じる必要があります。
そして、それは単にトップの心に秘めるだけでは意味がなく、きちんと会社として重要視していることを従業員に示す必要があるのです。
会社トップから全従業員に向けたメッセージでも良いですし、実際に優秀事例の現場を視察したり、表彰の機会を設けたり、手段は色々と考えられます。
やはり、トップの関心が高いか否かで、トップ自身の行動に表れ、それが管理職層に伝搬し、さらには従業員全体に伝搬し、長い目で見ると企業風土にまで影響を与えます。
管理職のサポート
トップの意思表示が、会社としての進むべき方向を決定づける役目とするならば、職場単位でのサークルを管轄する管理職は進むべき道に誘導して支えるガイド役のイメージになります。
たとえトップが明確な意思表示を示したとしても、トップ自身が各職場のサークルに寄り添ってそれぞれをサポートする余力はありません。
ここで重要な役目を果たすのが職場単位の管理職で、活動のテーマ選定やそれ以降の進め方など、定期的に様子を伺いながら、必要なときに方向付けや周辺部門への支援をサポートすることが求められます。
QCサークル活動は小集団で自らが問題・課題を見つけて解決に導く、という性質から、「管理職の余計な手出しは無用」と誤解して、ひいてはリーダーに全てを任せるような運営をしていないでしょうか。
活動メンバーの自主性を養うことは、決して管理職が活動に無関心で、リーダーに丸投げすることと同義ではありません。
答えを与え過ぎずに、かつきちんと自主性を尊重する線引きが難しく、管理職の活動への入り込みかたは、管理職自身がQCサークル活動のメンバーとして、リーダーとして、過去に培ってきた経験が問われる場でもあるのです。
そして、管理職の支援として最も重要な要素の一つと言えるのが、活動のテーマ選定に寄り添って、きちんとガイド役の役目を果たすことです。
活動に消極的になる理由の多くに、「組織の成果に貢献できている気がしない」という意見を耳にします。
これは、自職場での困りごとや問題を解決したとして、それが会社にとって何の利益にも見えてこないことによるもので、結果として「やってもやらなくても一緒」という考えが生まれてしまいます。
確かに、小集団で出来ることには限りがあります。
しかし、人が企業を作るという言葉もまた真実です。
裏を返せば、会社の経営方針をきちんと部単位、課単位に落とし込めば、自職場の成果が会社の経営方針に寄与する一部となるのは当然のことで、これが十分になされていないままテーマ選定を行うことで、不毛感の漂う活動になってしまうのです。
この問題は、もはやQCサークル活動に留まる話ではなく、経営陣から管理職に方針を落とすことが問われているもので、まさにTQM(Total Quality Management:総合的品質管理)の目指す姿そのものなのです。
当然ながら管理職層の持つ情報とサークルの活動メンバーの持つ情報には、その絶対量にも内容にも違いがあります。
そのため、管理職層は個々のサークルが自ら考えだした問題や課題に対し、それが自組織の目標に合致するものか、さらには部方針や会社方針に沿ったものに繋がるのか、見極めながらアドバイスと軌道修正の誘導を適切に行う必要があるのです。
従業員への教育
QCサークル活動を活性化させるための環境づくりとして、会社トップと管理職、それぞれの役職が果たすべき役割はここまでに述べた通りですが、以降は「仕組み」に関する方策の例を紹介します。
まずは、サークル活動を始める下準備として、従業員に対してQCサークル活動に関する基礎教育を行うことです。
その2の記事では、「成長」「スキル」とは何かについて説明してきました。
サークル活動を自走できるようにするには、「成長」とは何かを個々のメンバー自身に理解させることも必要です。
サークル活動に取り組んでも何も成長しないと消極的な意見を持つ多くの場合、「では、自身の考える成長とは何を意味するのか?」と問うと答えに詰まります。
日ごろから熱心に自己研鑽に励むことのできる人は、目的意識を持って自走して前に進むことのできる人であって、ある意味で放っておいても何の問題もありません。
問題は、日ごろから問題意識を持っていない層のことで、この場合にはまずQCサークル活動の目指す姿を伝えるところから始まります。
まずは運営の事務局側が従業員向けの教育コンテンツを準備し、集合やオンライン形式での講義を行ったり、誰でもいつでも閲覧できるように教育資料をHPに掲載したり、定期的な教育の機会が必要なのです。
これだけで従業員全員が同じ方向を目指せるかというと、そんな一筋縄にはいきませんが、少なくとも意義がきちんと伝わった層の人々は少しずつでも同調してくれることでしょう。
自己成長感の醸成
活動のスタートラインに無事に立って、実際の改善活動に取り組める地盤が整ったら、次はアウトプットに目を向けましょう。
QCサークル活動の意義が人財の育成、成長であることが伝わったとして、それを個々人が実感できないと、活動を実践した意味を理解してもらえません。
ここでも運営事務局のサポートが必要であり、つまり活動メンバー自身が活動を通じて成長できたと感じられるよう、活動計画の中に工夫を織り込むことが必要となるのです。
その一例としては、「スキルマップ」や「自己診断表」などがあります。
スキルマップは、例えばあらかじめ会社側が従業員に身につけてほしいと考えるスキルを分野別にマップ化して整理し、この中で自身の保有するスキルを表示して見えるようにするものです。
リーダーシップや他部門との調整能力といった汎用的なスキル、あるいは統計的な処理能力やITツールの活用スキルといった専門的なスキルなど、さまざまな切り口でのスキルが考えられ、活動を通じて出来るようになったものを自分自身が把握することが自己成長感に繋がるのです。
また、自己診断表も使い方はスキルマップと概ね同じですが、項目を点数化したものをレーダーチャートにすることで、分かりやすく表現することができます。
こういった様式をQCサークル活動の運営事務局が準備して、活動の前後でメンバーやその管理職に振り返らせることで、人財の育成に結び付いたのかどうか、今後のサークル活動への向き合い方を考える機会になります。
学習機会の創出
ここまでに述べた仕組みが、活動を自走させるための方策とすると、これ以降で紹介するのは、自走を後押ししてさらに加速させるための方策になります。
その一つ目が、学習機会の創出です。
例えば社内の優秀サークルの活動事例であったり、他社との情報交換であったり、外から情報を取り入れることが重要です。
というのも、小集団だからといって、自分たちだけの閉じた世界で完結していては、その進め方や完成度のレベル感も自分たち目線にしかならず、悪い言い方をすると自己満足の活動になってしまいます。
「井の中の蛙(かわず)」にならないよう、定期的に外の様子を学んで相互啓発を図ることが重要で、例えば社内外の発表大会や現場見学会など、枠組みを作ることが一案に考えられます。
褒められる場の提供
自走を加速する二つ目としては、褒められる場を会社が提供することです。
優秀な活動成果を収めたサークルや、進め方のプロセスがお手本になるようなサークルなど、具体的に何がどのように良かったのかを明確に本人に伝え、それを会社表彰のような形式で大々的に光を浴びる機会を創出することが大切です。
これによって、活動メンバーの承認欲求が満たされ、本人たちの次へのモチベーションに繋がるだけでなく、周りで見ている他のサークルにとっても良い刺激になることでしょう。
特に、会社トップが褒賞の機会に入ることで、会社としての一体感を伝えることもできるので、メッセージ発信の場としても活用することができます。
ここまでに述べたように、会社トップから各職場の管理職まで一丸となってサークル活動の地盤を作り、さらにそれを加速させる仕組みを設けることで、持続的にサークル活動が活性化する風土が醸成できることと思います。
活動の輪を広げるポイント
最後にサークル活動の輪を会社全体に広げていくためのポイントを3つ紹介します。
価値観を押し付けない
QCサークル活動は一人ひとりが成長するための活動だからといって、無理やりに活動メンバーに価値観を押し付けてはいけません。
きっと相手も同じように成長を望んでいるはずだとか、相手のためを思って手を引っ張ってあげないと、といった感情になることも理解できますが、人それぞれ考え方と価値観はさまざまです。
活動に参画する入り口のところでボタンを掛け違ってしまっては、まさにやらされ感を感じながら仕方なしにメンバーに入ることとなり、当然ながらモチベーションも維持できません。
逆に言うと、考え方のプロセスは違っても、きちんと本人が必要性を理解して納得したうえで参画することができれば、問題解決に多少の困難があっても自分で乗り越えられることでしょう。
優先順位はあくまでも組織として判断
二つ目のポイントとしては、テーマとして取り扱う問題・課題はあくまでも組織として優先順位を判断することです。
活動メンバーが自発的に自職場の問題・課題を分析するようになったら、大小さまざまなアイテムが出てくることと思います。
これは自主性を養う面では非常に良いことで、上長から与えられたテーマを鵜呑みにすることよりも、はるかに個々人が自分なりに考えて成長するきっかけになります。
しかし、候補のネタとして挙げられたものを片っ端から取り組んでいては、時間もお金も足りません。
あくまでも会社の時間とお金を使っている認識を忘れずに、本当にいまやるべき課題に絞って優先順位を決める必要があります。
やはり、ここで重要なのが管理職のサポートで、過剰に口を出さずに、かつ必要性の高いテーマに落とし込めるよう、適宜アドバイスを与えられるようにサークル活動から目を離さないようにすることが求められます。
人と組織の成長は長い目で見る
最後の要素としては、人と組織の成長は長い目で見ることです。
ここまで繰り返し人財育成について述べてきましたが、人の成長には本当に時間を要するものです。
サークル活動を一度やっただけで、問題解決力が十分に備わるわけもなく、あくまでも論理的に問題解決を図る一連の流れをサークル活動で習得し、日々の業務でPDCAサイクルを常に回し続ける継続の力が、その先の成長の明暗を分けます。
短期間で目に見えて成長するのは極まれなケースで、数年単位で時間のかかることを頭に置いておくようにしましょう。
特に管理職には辛抱強さと、中長期的な人員計画を常に考えることが求められます。
日々の業務に追われて、改善に手を付ける余力なんて無いかもしれませんが、とにかく個々人が自分で考えて悩み、解決策を絞り出さない限り、成長は生まれません。
中長期的に組織の中核に据えるべき人財であれば、手に職をつけて淡々と業務をこなす役割に留めるのではなく、時には上手く結果が伴わなくても、じっくりと自分で答えにたどり着くまで見守る忍耐力も管理職には必要とされるのです。
まとめ
QCサークル活動の意義や普及のしかたについて、3編にわたって紹介させていただきました。
QCサークルは「人財」を育てることを目的とした活動で、呼び方や活動の枠組みは会社ごとに違えども、問題や課題を解決する仕事を通じて、将来を担う「人財」を創る取り組みとして会社にとっての責務である活動と言っても過言ではありません。
そして、人が育てば、いずれ組織力として強い地盤になっていきます。
QCサークル活動は地味で古臭い活動のように思いますが、これを愚直に続けてきた会社とそうでない会社には企業文化として簡単に追いつけない差がついてしまいます。
トヨタ自動車を例に挙げると、まさにQCサークル活動による改善の風土が根付いた会社の代表例であり、あれだけの売上げと利益を出せるのは、強い地盤の従業員と組織があってこその賜物と言えると思います。
そして周りの会社は真似をしようと同じ枠組みを作っても、簡単に企業文化まで作り込むことはできず、挫折してしまうケースも多くみられます。
しかし、そこで諦めるのではなく、これまた地道に活動の在り方を模索し改善を続けることが唯一の手段でもあり、とにかく活動の灯を絶やさずに真摯に従業員の成長を考えて向き合うことが、少しずつ好転するきっかけになっていくのです。
ある意味では、自社または自組織のQCサークル活動がなぜ定着しないのか、なぜうまく機能しないのかというテーマを掲げ、QCストーリーに則ってしっかりと現状を把握して、真因を考え抜くこと自体が問題解決能力を養う上で、格好の材料とも言えるでしょう。
この記事で紹介したことをきっかけに、皆さまの会社の「人財育成」の考え方を見直す参考例として、少しでも貢献できたのであれば大変うれしいです。
最後までご覧いただきまして、ありがとうございました。
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