「QCサークル活動が形骸化しており、成果を実感できない」
「メンバーは皆、やらされ感を持ったまま仕方なしに取り組んでいる」
「発表会が目的になっており、発表のための活動になっている」
QCサークルのリーダーを担当されている方、あるいは、自社内にサークル活動の普及を図ろうとしている事務局の方、このような悩みをお持ちではないでしょうか。
私は過去に、とある企業でQCサークル活動を自社内に普及させるための推進事務局を務めた経験があり、上記の悩みは、まさに自社内の活動メンバーから挙げられた生の意見です。
私自身、自社の事務局員を取りまとめる立場であったこともあり、こういった消極的な意見は何度も耳にしてきましたし、何とか活動を活性化できないかとモチベーションアップの施策も試行錯誤してきました。
この記事で紹介する内容は、もちろん読者の皆さまの困りごと全てを解決できるわけではありません。
ただ、少なくとも私の事務局経験から得た失敗例や、最終的にたどり着いた活動の目指す姿など、解決の糸口に繋がった実例の一つですので、少しでも皆さまのお役に立てられればと思っています。
以降、全3回の記事にわけて、私なりに考えるQCサークル活動の要点を紹介いたします。
QCサークル活動(小集団改善活動)とは
QCサークル活動(小集団改善活動)は、企業で働く従業員が5名から10名程度の小集団でチームを結成し、定期的に集まって自主的に職場の問題・課題を解決する改善活動のことです。
歴史
QC(Quality Control)は品質管理を意味し、製品やサービスの品質、あるいは業務の品質の向上を通して、企業の経営改善や将来を担う人財の育成を図ることを狙いとしています。
1950年代、アメリカの統計学者W・エドワーズ・デミング氏により、日本に品質管理の考え方やさまざまな手法が伝えられました。
デミング氏は日本各地を回って講演会を開き、統計的品質管理(SQC:Statistical Quality Control)に基づく継続的な改善活動を提唱しました。
これをきっかけに品質に対する考え方が日本にも浸透し始め、独自に改良を加えて生まれたのがQCサークル活動です。
製造メーカの現場を中心に発足したQCサークル活動は、その後に事務や営業、技術部門にも広がり、さらには業界を超えて、販売・サービス関連の企業や医療・福祉施設にも広がりを見せています。
基本理念
日本科学技術連盟(日科技連)によると、QCサークル活動の基本理念は次の3つと定義されています。
- 人間の能力を発揮し、無限の可能性を引き出す
- 人間性を尊重して、生きがいのある明るい職場をつくる
- 事業の体質改善・発展に寄与する
QCサークル活動(小集団改善活動)とは | QCサークル | 日本科学技術連盟 | 品質管理
また、QCサークル活動の効果を引き出すためには、次の4つの要素を高めることが重要と言われています。
QCサークル活動の目的
最初に結論を言いますと、それはずばり「人財」の育成です。
ここでは、あえて資源としての「人材」ではなく、財産である「人財」という言葉を使います。
文字通り、人は企業の財産です。
武田信玄の名言「人は石垣、人は城、人は堀」にもあるように、国を守るのは人であり、その一人ひとりがどのようなパフォーマンスを出すかによって戦の勝敗が左右され、そしてその人こそが国の宝であるという考え方に基づく言葉です。
この考え方は企業の運営にも通ずるもので、企業の将来を決めるのも、まさに企業に属する人なのです。
今さら言われなくても承知済みという方も多いかと思いますが、ご自身の関わるQCサークル活動の運営が本当に「人財」の育成を第一に据えたものになっているか、いま一度振り返ってみてください。
本来の目的もきちんと伝えずに全員参加を押し付けたり、格好の悪い発表にならないように発表大会の準備に過剰に時間をかけて周りから強くフォローしたり、思い当たるところはありませんか?
このような悪い例は、まさに私が事務局を担っていたころに、やってしまっていた失敗例です。
自社のQCサークル活動をけん引する立場としては、活動が縮小しないように、成果が経営層にきちんと伝わるように、と意識が働きます。
もちろん、結果的に全員参加できることや、しっかりとアウトプットが見える活動に仕上がることは望ましいです。
しかし、順番を間違えてはいけません。
あくまでも活動の母体は、各職場の小集団のチームであり、それぞれが自発的に走り始める体制が整っていないと、どこを目指しているのか分からないまま迷走します。
個々人に納得感のないまま会社のルールや活動の枠組みだけを当てはめると、さまざまな反発が生じ、数々のネガティブな意見が活動メンバーから挙がってきます。
結果として、QCサークル活動は時代遅れだとか、発表資料だけを適当に取り繕うだけのノルマのイベントだ、といったような意識が生まれ、形骸化した活動に陥ってしまいます。
実際に私が担当していたときにも、時間のムダなので会社として辞めてしまった方が良いのでは?との声も多く、その意見が会社トップまでエスカレーションして、活動の存続の危機に晒されることもありました。
そして、これまでに私が他社の事務局の方と意見交換を重ねた中でも、全く同じような境遇にあるケースが少なくありませんでした。
やはり、各社ともにQCサークル活動の発足から長い年月が経って、活動自体の指針が不明確になり、それが企業風土として悪い意味で定着しつつあるようで、あらためて活動の意義に正直に向き合うときが来ているように感じます。
以降では、なぜそのようなネガティブな意見が多いのか、どのようにして解決の糸口を見つけていくべきか、自身の経験から要点を紹介したいと思います。
なぜ消極的に捉えられるのか
「QCサークル活動」というワードをインターネットで検索しても、「時代遅れ」とか「意味ない」といった後ろ向きのワードが続いて多く出てきます。
なぜ、活動メンバーにとって、QCサークル活動が消極的に捉えられてしまうのか、活動意欲の度合いに分けて、考え得る要因を紹介します。
やる気が全くなく活動にも参画していない状態
半ば強制的に全員参加を促す企業でない場合、QCサークル活動を始めるか否かは、各職場に判断をゆだねることになります。
そして、従業員に次のような意識が働いた場合、活動を始めるスタートラインにすら立たない状態に陥る可能性があります。
要因①:時代遅れに感じる
確かに、QCサークル活動の発足から半世紀以上も経過し、時代背景もIT技術も変化を遂げる中で、活動の枠組みだけ変わらないのは時代遅れに感じるかもしれません。
この後に述べる活動時間の制約の話や、QC手法の活用のしかたなど、色々な要素が混ざった総合的な印象として時代遅れのイメージがつくと思いますが、そもそも活動の中身を知る前の段階で、「QCサークル」という古めかしい名前の活動に食わず嫌いを感じる方も少なくないようです。
要因②:活動の時間を確保できない
高度経済成長の時代と比べ、残業の規制やワークライフバランスの考え方も時代とともに大きく変わってきました。
会社によっては、QCサークル活動は就業時間外に行うように命じられている場合もあるかもしれませんが、残業規制の中でそのような時間を十分に確保することは難しいです。
そもそもメンバーのスケジュール調整がつかず、サークルのリーダーや責任感の強い特定の人だけが活動するような実態では負担が大きくなるだけなので、活動時間を確保できないことを理由に参加を辞退する例も多く聞かれます。
やらされ感を感じながら活動に参画する状態
何とかスタートラインに立ったものの、参加への意義が感じられず、やらされ感を感じながら仕方なしにメンバーに入っているケースです。
メリットを感じず、デメリットだけが活動の中で膨れ上がり、自分にとって日々マイナス要素しか感じない状態で、実はこのケースが最も多い消極的な理由ではないかと感じます。
具体的には次の要因が考えられます。
要因③:業務への効果を実感できない
もちろん、やる気や活動時間など、色々な前提が整っていないから効果が出ないことは当然なのですが、そもそも小集団で解決できるレベルの課題が会社にとって何の影響があるのか、疑問を感じるかたも少なくありません。
例えば、自職場のちょっとした業務の効率化、マニュアル類の作成などを、活動テーマに選定するケースを考えてみましょう。
確かに、これらを解決すれば、自分たちにとって多少のメリットはあるかもしれませんが、当然ながら、それを実現するための負荷も自分たちが背負うことになります。
そして、これらの活動が他部門や会社全体に波及して効果が得られるのかというと、やはり限定的なものになることは仕方ありません。
そうすると、自分たちにとってメリットがあるかどうかで判断しがちになり、結果としてデメリットのほうが大きいとなると活動意欲がどんどんと低下してしまいます。
一方で、トップダウンで降りてくるような経営課題や先端技術開発などでは、部門横断的に大規模プロジェクトとして進める案件が多いので、こういったケースでは小集団のチームが自主的に取り組むことを躊躇し、他人事として捉えてしまいます。
小集団という単位が悪い意味で足かせとなって、会社に何の貢献ができているのか分からないと感じられてしまうことが根底にあるように思います。
要因④:作業が目的化する
これは、特に成果発表などの対応で見られる課題です。
活動のアウトプットとして、どのようなステップで問題を解決したのか、成果はどのくらいであったのか、報告する場が必要となります。
簡単な報告書で済ませるケースや、発表大会を開催して関係者の前でプレゼンするケースなど、それぞれの企業の事情に合わせた運用をなされていると思いますが、発表大会の規模によっては活動メンバーの大きな負担になり得ます。
発表大会の場は、良い意味では活動メンバーのモチベーションになるのですが、上司をはじめとする周りからの過度なプレッシャーが悪い影響を与えます。
特に、選考会のステップを重ねて、社内の大会から社外の大会まで勝ち上がる場合など、自部門を代表しての責任を負うので、やはり仕上がりに対する期待感もどんどんと増します。
そして、資料づくりやプレゼンの練習など、これらの作業が目的化してしまうと、本来の活動の意義から乖離して、発表のための活動になってしまうのです。
実際、私が関わった活動メンバーに話を聞いても、発表大会の負担が大きくて活動の参加を控えたいといった意見や、発表大会で上層部からの反応が良いネタを選んでいるといった意見など、本来の目的が見失われた活動になっていたことも多くありました。
やはり、アウトプットの場は設けるとしても、それが最終到達点の目的ではないことを周知しないと、活動メンバーは不毛感を持ち、ベクトルを合わせることは難しくなります。
やる気はあるが活動が結果に結び付かない状態
最後は、割と前向きなケースで、やる気が維持されている限りはネガティブな意見は出ないかもしれません。
しかし、長らく結果に結び付かない状態が続くと、いずれ何も得られない活動と見切りをつけてしまうかもしれません。
要因⑤:QC手法への期待外れ感
QC7つ道具やQCストーリーなど、本質を知る人にとっては、テクニカルな話ではないと分かってもらえるのですが、初めて触れた人にとっては、何か困りごとを解決してくれる万能ツールのように期待されているかもしれません。
どちらの手法も論理的かつ統計的に考えを整理し、分かりやすく相手に伝えるためのフレームワークのようなものですので、ツールと期待する方にとっては、古びた技術のように思われる可能性もあります。
例えば、「論理的思考(ロジカルシンキング)」というスキルが時代を超えて不変であるように、QC手法そのものも不変であって当然なのですが、こういった最先端ツールに対する期待感の裏返しとして、古びた手法への期待外れ感が生まれるのかもしれません。
また、手法を上手く使いこなせない、使い方が難しいといった声も良く聞きますが、これも手段と目的が入れ替わっている可能性があり、あまり良くない傾向です。
手法を習得することが目的ではなく、あくまでも考えを整理、見える化するための補助的な手段の一つですので、完璧に手法を使いこなすことがゴールではありません。
こういったケースは、特にQC手法を使うことありきで活動を進めがちになるので、手法を使っているのに上手く結果に結び付かないと誤解することが消極的な意見に繋がっているのではと思います。
以上のように、消極的に捉えられる要因は多岐にわたり、この記事を読んでいる皆さんもいくつか思い当たる節があったのではないかと思います。
最後までご覧いただきまして、ありがとうございました。
次回「その2 どうすれば消極的にならないのか?打開策を考える」の記事では、これらの現状を踏まえて、打開策について紹介したいと思います。
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