「プロセス重視」という言葉をご存じでしょうか?
プロセスとは過程のことで、文字通り「過程を重視する」ことを意味します。
一般用語としても用いられるような表現ですが、品質管理の面でも基本的な考え方の一つとして、重要視されています。
この記事では、なぜ品質管理でプロセス重視の考え方が重要なのか、実際の業務で実践する際のポイントは何か、私の経験談を交えて解説します。
ぜひ最後まで読んで参考にしていただければと思います。
生産現場のプロセスと結果とは?
まず、プロセスと結果について、品質管理における分類を整理しておきましょう。
プロセスと結果は、因果関係を意味する表裏一体の繋がりがあり、切っても切れない関係性の言葉です。
生産現場の観点で結果というのは、例えば、歩留りの改善や生産能力の向上などが挙げられます。
結果を出すというのは、歩留りを○○%改善したとか、生産能力を△△%アップしたといったように、具体的な成果として見える状態を表します。
一方、プロセスとは、成果を出すに至るまでの過程を表します。
例えば、歩留り改善のケースでは、以下の一連の流れがプロセスとなります。
- 現状を把握するため、不良の内訳を調べる
- 内訳を視覚的、定量的に示すため、パレート図を用いて集計する
- 明確になった課題を解決するため、系統図法を用いて対応策を挙げる
- マトリックス図法を用いて対応策の優先順位を付ける
- 対策を実施する
- マトリックス図法を用いて対応策の効果を評価する
- 対策実施と効果検証を繰り返す
- 目標の歩留りに到達する(結果)
※QC手法の詳しい説明は、QC7つ道具、新QC7つ道具の記事をご覧ください。
最終的な結果としては、目標を達成したか否か、簡潔に表現されるのですが、そこに至る過程には色々な経緯のあることが見て取れると思います。
プロセスには、たくさんの情報が詰まってるんだね
なぜ重要なのか?
プロセス重視は、結果主義とは逆の考え方です。
勝負の世界では結果がすべてとか、結果が伴わないと意味がないといった表現がされたりしますが、もちろんその考えも一理あります。
しかし、品質管理の観点では、結果に至るまでの過程にこそ重要なノウハウの情報が詰まっており、これを飛ばして結果しか見ないのは、推理小説の結末しか見ないようなものです。
なぜ品質管理でプロセス重視の考え方が重要なのか、具体的なメリットを紹介します。
メリット①:同じ過程を踏めば、誰でも再現できる
過程というのは、すなわち手順を意味します。
今まで経験のない人に手順書も渡さず、いきなり仕事を任せたら、どうなるか簡単に想像がつくと思います。
当然、その人は何から手を付けて良いのか分からず、行き詰ってしまうと思います。
何も進まないならマシな方ですが、自分なりに勝手に進めてしまって、思わぬ事故を巻き起こす可能性も考えられます。
これは単純な一つの作業に限らず、仕事の進め方として全般に関わる話です。
例えば、品質管理の事例を挙げると、先ほど手順の一例を示したように、原因調査→対策検討→効果確認と大枠の流れがあり、そのプロセスを踏んで進めることが重要なのです。
逆に言うと、経験の浅い人に歩留り改善の業務を任せる場合でも、あらかじめ大枠の流れを説明した上で、プロセスを着実に進めてもらえれば、多くの場合、期待した結果を出せるようになると思います。
つまり、経路(プロセス)を具体化することで、同じ結果にたどり着く再現性が高くなるのです。
メリット②:上手く再現できなくても、得られるものはある
仮に、同じ手順を踏んで進めたつもりでも、期待した結果が得られない場合もあります。
これは、例えば、材料や装置などの僅かな違いによる避けられない原因によるばらつき(偶然原因)や、何らかの異常によるばらつき(異常原因)の影響が考えられます。
ただし、再現しなかったからといって、何も残らないのではありません。
プロセス重視の考え方においては、期待した結果を再現しなかったとしても、その過程を振り返って考察することで、再現しない原因を分析することができるのです。
過程の詳細を比較すれば、何らかの前提条件が異なっていることが見つけられるかもしれません。
あるいは、今までに知り得なかった因果関係を見つけ出すことができるかもしれません。
つまり、「ただでは転ばない」という諺(ことわざ)に通じる考え方ですね。
何ごとも過程が大事
品質管理の現場では、PDCAサイクルを効率的に回していくことが大事です。
これには、結果重視の考え方のみでは、個人のスキルに依存するところが大きく不十分で、誰もが同じように、過去の知見を活かして進めることが欠かせません。
すなわち、単にプロセス重視といっても、考え方を真似るだけではダメで、経緯や因果関係を整理して情報資産として残していくことが大切なのです。
実践のポイント
ポイントを3つ紹介します。
①:プロセスを忠実に記録する
プロセス重視を掲げるからには、忠実に記録することを心がけましょう。
手順や条件の記録をサボってしまうと、曖昧な情報が残ってしまいます。
上手く再現できない原因が、偶然原因や未知の異常原因なら仕方ないとしても、ヒューマンエラーによる異常で再現できないことは避けたいですね。
特に、曖昧な情報だけ残して、後任の人に引き継ぐ場合、前提条件が異なるのは混乱のもとになるだけなので、詳細かつ正確なプロセスを残すようにしましょう。
②:理屈との紐づけを忘れずに
では、単に記録して、それを模倣すればよいのかというと、もちろんそれで良いはずがありません。
プロセスとは因果関係を表すので、理論的に整理できていないプロセスは無意味です。
なぜ、だから・・と問いかけを繰り返し、プロセスを一つのストーリーと捉えて、辻褄が取れているか、整合性を確認するようにしましょう。
逆に言うと、理論的に整然としたプロセスであれば、誰もが納得できる手順ですので、何も言わなくても、これを見本として引き継がれていくことと思います。
③:きちんと資料化して残す
因果関係を理論的に整理して資料化して残すことが重要です。
品質管理におけるプロセスとは、ただ単に過程とか工程とか訳されるのではなく、まさに情報資産なのです。
キーワードは、正確に理論的に資料化
こてつ経験談
情報資産が何もない
とある個産製品を数年ぶりに作ることになり、装置の再立上げを任された時のことです。
この製品は3~5年に一度、数台程度の規模で生産する、いわゆる個産製品なのですが、その組立装置での苦労話です。
前回の生産から時間が空いたことで、前任者が既に異動していなくなってしまいました。
早速、再立上げの準備として、工作手順書をベースに条件を設定して、サンプルの出来栄えを確認することにしました。
主要パラメータを入力して、いざ実際に作ってみると、問題だらけ・・。
まず、以前と同じ出来栄えにならず、状態が再現しない。
条件を調整しようにも、どのパラメータがどの程度影響しているのか分からない。
そもそも、元々の条件設定で問題ないのか、理論的な裏付けが不明。
・・と、行き詰ってしまいました。
つまり、条件設定の根拠を記したエビデンスの資料が何も残ってなかったのです。
これまで、経験、勘、度胸を頼りに進めてきたようですが、結果として、その人にしかできない、再現性がない状態になってしまいました。
歴史は繰り返さない
結局、全ての基礎データを取り直すことにしました。
パラメータの影響度や理論的な裏付けを取って検証したところ、最終的にこれまでの条件が妥当という結論にたどり着きました。
そして、最初に状態が再現しなかったのは、材料ばらつきによる影響で、装置のとあるパラメータを微調整することで対処可能と判明しました。
おそらくですが、前任者も試行錯誤を繰り返して、妥当な条件を見つけ出したのだと思います。
そして、私も同じ失敗の道をたどって、同じ結論に到達しました。
「歴史は繰り返す」と言いますが、失敗の歴史は繰り返してはいけません。
私たちは匠の技を伝承しているのではないので、その人しかできない、再現性がないことは、全く誇らしいことではありません。
同じ失敗の繰り返しは時間のムダでしかないので、似たような状況でお悩みの方は、今からでも遅くありません。きちんと情報として残す習慣を組織に定着させましょう。
まとめ
- プロセス重視
⇒結果のみに着目せず、結果に至るまでの過程を重視する品質管理の考え方 - なぜ重要なのか
⇒同じ過程を踏めば、誰でも再現できる
⇒上手く再現できなくても、得られるものはある - 実践のポイント
⇒①:プロセスを忠実に記録する
⇒②:理屈との紐づけを忘れずに
⇒③:きちんと資料化して残す
プロセスと結果は表裏一体の関係なので、プロセスを軽視すると、そのまま結果に跳ね返ってきます。
同じ失敗を繰り返さないためにも、ノウハウやトラブル事例(過去トラ)を資料化して、プロセスを後進に伝承していきましょう。
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