「ファクトコントロール」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
事実(ファクト)を管理(コントロール)することを意味しており、事実に基づく活動の重要性を表した品質管理の考え方です。
この記事では、ファクトコントロールがなぜ重要視されるのか、具体的にどのような活動をすればよいのか解説します。
職人気質の職場の文化にお困りの方、客観的なデータ解析の思想を浸透させたい方にとって、参考になればうれしいです。
ファクトコントロールとは
ファクトコントロールとは、事実に基づく活動の重要性を表した品質管理の考え方です。
モノづくりにおける「事実」というのは、実際に起こった事柄を表すだけでなく、その事柄を数値や言語にデータ化したものも含まれます。
そして、事実に基づく活動というのは、こういったデータや情報に関する「事実」を判断基準にして、活動方針を決めることを意味します。
データや情報の分類については、別の記事で詳しく紹介していますので、合わせてご覧ください。
逆の考え方KKDとは
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ファクトコントロールに反する思想として、勘・経験・度胸の3要素があり、頭文字を取ってKKDと呼びます。
具体的には、何の根拠もない勘や経験に頼ること、度胸が大事と踏ん切りをつけることを判断基準にする考え方です。
時には、こういった要素でズバッと決断することも必要ですが、何でもかんでもKKDに頼っていては良くありません。
理由はシンプルで、裏付けがないので説得力がないのと、根本解決にならないので同じ問題がいずれ再発するからです。
ファクトコントロールは、KKDに頼らない考え方として、モノづくりの現場に欠かせないので、ぜひ覚えておくようにしましょう。
なぜ重要なのか
次の3つのメリットが挙げられます。
現状の課題解決だけでなく、次の世代に繋げる資産になる考え方でもあるので、組織として習慣化できることが望ましいです。
①:客観的な指標で説明できる
例えば、何らかのトラブルが出たとして、第三者の立場で状況の説明を聞くことを想定してみてください。
出てきた報告が、「○○だと思う」とか、「△△のはずだ」といった内容だとしたら、本当か?なぜそう言えるのか?と疑問に思いませんか。
これは、報告者の主観が入っているためで、つまり情報にフィルターのかかった状態になっているためです。
長年の信頼関係のある者どうしであれば、その人のフィルター自体も実績のあるものなので、問題ないかもしれません。
しかし、信頼関係の浅い場合や、第三者として捉えると、やはり主観の入った意見では信頼が置けません。
そのため、正確なデータや情報などの客観的な指標で事象を説明することで、周りに対しての説得力が変わってきます。
②:根本解決に結び付けられる
勘・経験には科学的な根拠がありません。
仮に、トラブルの解決が上手くいったとしても、それは偶然の話で、次に同じことをやって同じ結果が得られる保証はありません。
やはり、原理原則に基づいて、現実を正確に捉えることが重要であり、根本解決ができたものは、基本的に不具合は再発しません。
もし、不具合が再発したとしても、過去の前提条件と何かが異なるはずなので、その違いを比較することで、早期に問題解決を図ることができます。
このように、論理的な裏付けを取って、現状を分析することで、不具合の再発による対処の二度手間を防ぐことができます。
三現主義、原理原則を重要視する考え方については、別の記事で紹介していますので、合わせてご覧ください。
③:情報資産を残すことができる
現状のトラブルが解決できたら、次は未来に向けての対処です。
データ解析を用いて、論理的に解決に導くことができたのなら、これを技術文書化して情報資産として残していきましょう。
経験談なら失敗事例として残すことも価値がありますが、勘や度胸は文書化できません。
もし、その経験者が異動してしまうと、知見が何も残らなくなり、やがて同じトラブルが再発する日がやってきます。
後世に悪い習慣を残すのではなく、ファクトコントロールの習慣と情報資産を残してあげられるようにしましょう。
客観的な説得力が増すんだね
具体的にどんな進め方をすればよいのか
それでは、具体的にどのような活動を実践すればよいのかポイントを紹介します。
①:必要な情報が何かを考える
まずは、「事実」を明確にするには、どのような情報が必要か考えることから始めましょう。
事実といっても、目の前で起こっていることを、ただ単に受け入れることでは何も得られません。
課題を解決することが目的なので、そのために必要な情報と不要な情報をあらかじめ整理してイメージしておかないと、情報に埋もれてしまいます。
②:データを収集・解析して情報化する
次に必要なデータを収集し、解析します。
データの解析が大変重要で、せっかく取得した貴重なデータを活かすも殺すも解析の仕方しだいです。
データの解析には、QC7つ道具を用いると効果的です。
例えば、ヒストグラム、散布図、管理図などを用いることで、データを視覚化でき、規格値や管理値に対しての現状を見ることができます。
また、パレート図やチェックシートを用いることで、優先的に取り組むべき課題や、要因の関連性を見ることができます。
③:情報を元に判断して方針を決める
情報を整理できたら、これを元に方針を決めます。
ここで重要なのは、因果関係や理屈との紐づけを意識することです。
せっかく、情報化まで上手くたどり着けたとして、最後にKKDで判断を下しては元も子もありません。
因果関係の整理には、特性要因図を用いることが有効です。
また、主に数値データを取り扱うQC7つ道具以外に、言語データを扱う新QC7つ道具も情報の見える化や意思決定に有効です。
こてつ経験談
噂話に惑わされるな
とある製品で不具合が出たときの話です。
私は出先にいたので、上司から一報が入りました。
聞くと、「○○が原因で△△の不具合が発生したらしい」とのこと。
早速、その原因を解消するための策を考えて、自分の部下に効果検証の指示を出しました。
しかし、効果は全く見られず、行き詰った挙句に不具合の現品を改めて確認したところ、そもそもの原因が違っていることが分かったのです。
一見、同じように見える不具合でも、発生箇所やサイズによって、メカニズムが異なる場合があります。
今回のケースでは、「○○が原因」と当たりを付けた段階で情報がねじ曲がってしまったようです。
モノづくりは情報戦
誤った情報を前提にすると、いつまでも答えにたどり着かず、労力と時間をムダにしてしまいます。
勘や経験を頼りに進めた場合、その思い込みが誤った情報を流すことにつながりかねません。
まずは、三現主義に基づいて現状を把握すること、次に原理原則に従って理屈との紐づけを行うこと、これにより正確な事実を明確にできます。
いかに正確な情報を迅速に捉えられるか、不具合対応や生産性改善など、モノづくりのあらゆる場面で、ファクトコントロールの考え方は重要になってきます。
まとめ
- ファクトコントロール
⇒事実に基づく活動の重要性を表した品質管理の考え方 - なぜ重要なのか
⇒①:客観的な指標で説明できる
②:根本解決に結び付けられる
③:情報資産を残すことができる - 具体的にどんな進め方をすればよいのか
⇒①:必要な情報が何かを考える
②:データを収集・解析して情報化する
③:情報を元に判断して方針を決める
時には自分の直感を信じることも大切ですが、いつまでも直感を当て続けることはできません。
少し時間をかけて回り道をしてでも、事実をきちんと追いかけながら進めることで、出戻りが減って結果として効率的な解決に繋がることも多いです。
まずは、日頃の活動の中でKKDに頼る判断をしていないか、振り返ってみてはいかがでしょうか。
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